サンタ・マリア・デル・カルミネ教会
カッライア橋を渡って少し南に行くと横切る道がある。左へ行くとサント・スピリト通
りだが、右はサン・フレディアーノ通り。そちらへ曲ってまた少し行くと左に広い道があり、その突き当たりがこの教会である。前に広がるのがサンタ・マリア・デル・カルミネ広場だ。
この教会はルネッサンスの記念碑的絵画があるので有名であるが、そのファサードはびっくりするほど質素である。13世紀半ばにカルメル会の教会として創建された。
最初に建てられたときはフィレンツェ・ゴシック様式であったが、18世紀に火災にあいほとんど消失してしまった。
現在は、G・ルッジェーリらが設計したバロック様式の建物である。
火災によって本堂は燃えてしまったが、付属していたコルシーニ礼拝堂や聖具室と共にブランカッチ礼拝堂は燃え残り、そこに描かれていたマザッチォとマゾリーノの協作になる「聖ペテロの生涯」は今も見ることができる。
絵を見るには教会ファサードの右手にある扉から入り、17世紀の回廊付き中庭を通
り抜ける。
この絵画史上に残る名画とも言われる連作フレスコ画は今日の基準で見ると必ずしもよく描けた絵とは言いかねる。「アダムとイヴの楽園追放」
などのイヴの顔はかなり稚拙に描かれている。しかしこの絵は15世紀初めに描かれている。当時は中世を抜け出した多くの成功した商人達が自分達の礼拝堂を造り始めたときである。
それまでは教会内部の人間が教会のために描いていた為、他と違うものを描こうとか、自分の名を後世に残そうなどとは考えていなかった。
だが、 成功した商人達が街の画家に自分達のために描かせ始めたのが絵画の変化となり、ルネッサンスが始まった。言わば、人とは違う人間として認知されたいという当時の商人のエゴイズムがルネッサンスを生んだのである。
そんな背景を考えながら、この絵を見てみると一人一人の顔を違えて描いているところや人間らしい表情を持って描かれているところなど、急激に発展したルネッサンス絵画の原点を見ることができる。
それぞれの人間を個性ある人として肯定するところから始まったルネッサンスの精神そのものがこの絵には描きこまれているのである。
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